Case 07:設計事務所編[東京都Mさま]
懐かしい素材を生かした「木の家」で母と娘がコンパクトに住む
お母様と2人で暮らす娘のMさん。
生まれた時から住んできた木造家屋が古くなっていたため、思い立って建て替えました。
リビングや、トイレと直接行き来できるお母様の寝室を1階にまとめ、コンパクトに生活できる空間にしました。木の家にしたいというMさんの希望を生かし、リビングを貫く柱や階段、床材などにはふんだんに木を用いています。
障子越しに入る日差しが、そんな室内を柔らかく包み込みます。
以前の家で使っていた材料を天井や建具に再利用することで、思い出をつなぐ家にもなりました。
住まいづくりデータ(Mさん)
【家族構成】 | 母、娘 | 【依頼先】 | 設計事務所 |
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【構造・工法】 | 木造軸組工法 | 【竣工年月】 | 2012年11月 |
【家族構成】 | 母、娘 |
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【依頼先】 | 設計事務所 |
【構造・工法】 | 木造軸組工法 |
【竣工年月】 | 2012年11月 |
「住まいの計画書づくり」を通して家のイメージがはっきりしました
それまで長く住んでいた家は、曵家により数m動かしたことがあり、「土台が大丈夫かどうか不安でした」(Mさん)。当初はMさんの代になったら好きなように建て替えればいいとのご希望だったお母様も、東日本大震災を経て、建て替えに対して前向きに。「この機を逃してはならない」と、Mさんは家づくりを具体的に考えるようになりました。折しも雑誌で「住まいづくりナビセンター」の存在を知り、早速、訪れてみました。
初日にナビゲーションを受けた後は、各種のイベントにも積極的に参加しました。江戸東京たてもの園(東京都小金井市)でかつての名住宅を見学したり、狭小住宅のセミナーを受けたり。「実際によそのお家を見た経験がなかったので、とても新鮮でした」とMさんは話します。「住まいの計画書づくり」に申し込んだMさんは、現在の生活の見直しや、写真選びによるイメージの確認などを実施。3回目の打ち合わせで、住まいのナビゲーターが「住まいの計画書」を一冊のファイルにまとめてお渡ししました。
これらの作業を通して、家づくりに対する不安が払拭され、自分が求めている家のイメージがはっきりしたと振り返るMさん。「自分の考えをしっかり反映させた家にしたい」という思いから、「パートナープログラム」を利用して設計事務所に設計を依頼することにしました。
念願の木の家を実現したMさんは、「住まいづくりナビセンターに行かなかったら、以前の家にまだ住んでいたかもしれません」と笑います。「家を建て替えるということにはやはりエネルギーが必要なので、歳をとってからだと大変です。こういう出会いがあったのは幸運でした」。
Mさんの住まいづくり
- 住まいづくりのきっかけ
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漠然と考えていた家の建て替え、たまたま見ていた雑誌がきっかけに
建て替えを考え始めたMさんですが、特に期限もなく、何から手をつければいいのか分かりません。そんなある日、買い置きしてあった住宅雑誌をパラパラ見ていると「住まいづくりナビセンター」の記事が目に飛び込んできました。住宅展示場は一度行くと急かされる印象があり気後れしていたMさんですが、「ここなら偏っていない立場で相談に載ってもらえそう」と感じます。早速、電話で問い合わせ、訪れてみました。
専門家に相談することに
住まいづくりナビセンターへ
- 来館→ナビゲーションを受ける
-
ヒアリングを通して今の家の不自由さを実感
最初の「ナビゲーション」で、今の家の様子や生活についてお話ししました。「住まいのナビゲーター」にはリフォームする方法もあると言われましたが、曳家により土台の状態が不安なので建て替えしたいと伝えました。母が足の手術をしていたため、玄関の大きな段差やまたぎのある部分で不便に感じていることなどもお話ししました。今は歩いて過ごしている母の今後を考えると不安でしたし、自分自身も将来はどうなるか分かりません。ヒアリングを受けていくうちに、なぜ建て替えしたいと思っていたのかという理由に改めて気づかされました。
こういう相談の場で、最初から家の広さや予算といった具体的な話を聞かれていたら、腰が引けてしまったかもしれません。建てるよう急かされることもなく、まず今の生活を整理する作業から始められたのは、私にとってありがたかったですね。ナビの視点
長い目で見て最適な方法をアドバイス
住まいの専門家である建築士が公正・中立な立場からご相談に載る「住まいづくりナビセンター」は、新築やリフォームを必ずお勧めするわけではありません。お客様の状況によっては、建てなくてもよいし、建てるとしても今でなくてもよいとお話しすることがあります。長い目で見て、どうすることがお客様にとって適切なのかを考えながらアドバイスしています。
そのためヒアリングではまず、建てたい家のことではなく、今の状況についてうかがいます。普段どのように生活していらっしゃるか、現在の家に何か暮らしづらい面があるか。そうした会話を通して、お客様が抱えている問題点を引き出し、家に対して何を大切に考えているのかを認識していただくことが大切です。- 住まいのナビゲーターより
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Mさんが住んでいらした家は、段差に問題を抱えていました。家の床面が道路面よりかなり高く、お母様が玄関まわりの段差を上がり下りするのは大変でした。室内の段差も見逃がせません。お話しているうちに、こうした段差のない家で暮らしたいという願いが、Mさんにとって建て替えの大きな動機になっていることが分かりました。
ヒアリングの後には、江戸東京たてもの園の見学セミナーにも参加していただきました。江戸東京たてもの園では、明治時代から昭和初期にかけて建てられた近代住宅を見られます。流行すたりとは関係なく、50年や70年という長い時間をかけて暮らしが営まれてきた建物のもつ良さを体感していただければと思います。
- 「住まいの計画書」をつくる
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自分のイメージを伝える言葉を見つけ出す
60枚ほどの写真から好きな雰囲気を選ぶ「イメージ法」では、木を使い、内外のつながりを感じさせる住まいのイメージを中心に選びました。「スタイルを見つける」というシートでは、部屋ごとに自分のイメージを書き込みました。
普通、「どういう家を望んでいるか」と聞かれても言葉にするのは難しいですが、このシートには選択肢が用意されている箇所もあったので、すらすら楽しく記入できました。こうした「住まいの計画書づくり」を通して自分が好きな家のイメージとは何かが分かったため、実際の家づくりでもぶれずに安心して取り組むことができたように思います。ナビの視点
思いを写真や言葉に置き換え
写真による「イメージ法」や「スタイルを見つける」シートの記入は、自分の考えに気づいていただくのが目的です。好きなイメージを具体的な写真で選んでおくと、その後実際の家づくりをする際にも何かと参考になります。また、「スタイルを見つける」というシートでは、個々のスペースに対するイメージを具体的に言葉で表現していただきます。リビング1つとっても、人によって過ごし方は様々。「何畳の広さがほしい」ではなく、どのように過ごしたいかというイメージを言葉で説明できるようにしておくことは、自分の思いを実現するために欠かせません。
- 住まいのナビゲーターより
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「スタイルを見つける」を通して、家に対するMさんの意識を浮き彫りにしていきました。例えばリビングについては、「ペットの猫が外を見られるようにしたい」と書かれていました。前の家では、ピアノの上が愛猫の居場所だったとか、外を見られるように台をつくっていた、という話も出てきました。またキッチンに対するイメージは、「楽しく料理する場所」。これらのイメージは、具体的に家づくりを進める際の重要な手掛かりになります。
- 相談の最後には、住まいのタイトルを一緒に考えました。家の設計を進めていく過程では、予算や面積の制約などからいろいろな変更が発生します。その際、気をつけなければならないのは、手を加えていくうちに、思い描いていた家からどんどんずれていってしまうこと。こうした状態を避けるために、住まいと暮らしに対する自分の軸となり、何かあればそこに立ち返って判断できるようなタイトルを作っておくのです。お料理が好きで友達の多いMさんは、「人を呼べる家」というタイトルを考えました。
- 「パートナープログラム」を利用
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難しい法規制も乗り越え木の家を実現
「住まいの計画書づくり」も終わり、今後どうしようかと思っていたところ、「Mさんの場合、家づくりを進めるのに何の支障もありませんね」と「住まいのナビゲーター」に声をかけられました。専門家から見ても問題ない、家づくりを進めていい状態なんだと安心し、家づくりに取りかかることを決断しました。
敷地面積が40m²弱(約11坪)と限られているし、自分の考えをきちんと反映した家づくりをしたいという気持ちもはっきりしたので、設計は建築士に依頼したいと思いました。「パートナープログラム」でいくつかの設計事務所の写真を見せてもらい、その中から、木の家の雰囲気がいいなと感じた設計事務所に決めました。法規制では木造を建てるのが難しい敷地でしたが、建築士に工夫していただき、希望どおりの木の家を建てることができました。ナビの視点
手がけた家の写真で比較検討
家の新築を考えるお客様にはご希望に応じて、家づくりを一緒に進めるパートナーをご紹介します。ご紹介する設計事務所、工務店、住宅メーカーは、いずれも「住まいづくりナビセンター」に登録している会社です。Mさんには、複数の設計事務所が手がけた家の写真を比較検討したうえで、希望に合った事務所を選択していただきました。
- 設計者のひとこと
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「木の家をつくりたい」というMさんのご希望がはっきりしていたので、それを生かす形で設計を進めました。一般的な木造住宅は認められない敷地でしたが、150ミリ角の太い柱などを使う設計によって、木の柱が見える空間を実現しました。
1階の床の高さは通常より低くし、外からの出入りをしやすくしました。また冬には1階ダイニングの暖気が2階に逃げないように、吹き抜けの上に下り倒し式の障子をはめ込むなど、細部にも工夫を施しています。
- 設計事務所に依頼を決める
設計期間 約4か月
施工会社を決め工事に着手
設計期間 約6か月
Mさんの新しい住まいが完成
こだわりのポイント
1.段差なしで暮らしやすいコンパクト空間
お母様の身体に負担がかからないよう、生活空間を1階にまとめました。玄関に直結したダイニングを生活の中心の場に据え、ここからすべての部屋につながっていく動線としています。
ダイニングの北側にはお母様の寝室、寝室からも直接出入りできるトイレや浴室を配置。吹き抜けの階段から上がる2階には、Mさんの部屋と客間の和室を並べました。
廊下のないコンパクトな間取りは、吹き抜けの効果によって、およそ54m²(約16坪)という延べ面積以上の広がりを感じさせます。
- 生活空間の中心になる吹き抜けのダイニング。1階に、玄関、キッチン、お母様の寝室、トイレをコンパクトにまとめた。
- ダイニング側に続くオープンなキッチン。白いキッチンは、Mさんのこだわりでした。L字形の使いやすいレイアウトに。
2.ムクの木がもたらす温かな雰囲気
木の家にしたい。そんな思いが出発点となったMさんの家では、吹き抜け空間に表れた木の柱や階段、床板など、随所にムクの木を用いています。障子やふすまといった和紙の肌合いも加わり、室内には温かな雰囲気が漂います。
実は当初、木の家づくりに難問が立ちふさがりました。敷地が、昔ながらの木造住宅は建てられない新防火地域(※東京都による指定)に含まれていることが分かったのです。木造にするのをあきらめかけたMさんですが、やはり当初の思いを叶えたいと考え直します。意向を受けた建築士は、断面寸法の大きな木を用いることにより、部材の周辺部が燃えても中心部が残って構造体を支える「燃えしろ設計」という考え方を取り入れて、木の家を実現させました。
3.昔の家の材料を再利用し、家族の思い出をつなぐ